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覚醒1 Harukanarutokinonakade3:Kurou×Benkei 2009.06.07UP
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「九郎ちゃん」と慶が呼べば、「慶ちゃん」と九郎が呼び返す。
二人で呼び合うと自然と顔に笑みが浮かぶ。
そんなやりとりがいつもの九郎たちの挨拶だった。
"慶ちゃん"とは、九郎の家の隣家の男の子でいつも一緒にいる3つ年上の友達だ。
九郎が生まれてまだ間もない頃、慶の母親は仕事に出ていて育児ができなかったから、
隣で友人だった九郎の母親が一緒に面倒をみていたのだ。
慶は一緒に育った九郎を、大事にしてくれていた。
九郎はこの幼馴染が大好きだった。
この時から既に、九郎の世界は慶を中心にまわっていて、
何をするにも常に一緒でないと泣き出した。
記憶を思い出すまえの事は、細かく覚えていないのだが、
離れると消えてしまうように思っていた気がする。
慶の母親が迎えに来て、慶が家に帰る時は、毎日の事ながら大号泣だ。
九郎は慶の母親と夜が嫌いになった。
そして――運命の日がやってくる。
あの日は、お互いの家族と一緒にスキー場へ遊びに来ていた。
大人はみんなスキーに行き、九郎と慶の二人きり、ゲレンデで遊ぶことになった。
その事が九郎が前世の記憶を思い出すきっかけになろうとは、
この時つゆとも気づかなかった。
だが、九郎にとって忘れられぬ一日となった。
「覚醒」
「九郎ちゃん、何して遊ぼうか。鬼ごっこでもする?かくれんぼがいい?」
にっこりと微笑んで、慶が九郎に問いかける。
九郎はこういう時の慶の笑顔が大好きだった。
穏やかで、優しくて、ずっと傍で見ていたい気持ちになる。
「かくれんぼがいい」
九郎はいつもかくれんぼを選ぶ。
どこに隠れたとしても、慶が必ず自分を見つけてくれる。
その感覚が好きだったのだ。
慶から逃げて走るより、追いかけても追いかけても捕まらないあせりより、ずっといい。
「じゃあ、はじめようか。最初は僕が鬼でいいよね」
九郎がうんと答えるより先に、慶は目を瞑り、100を数え出した。
まだ7歳の足が、雪の中を歩き始める。
…どこがいいかな
辺り一面見回しても、銀世界が広がっているだけで、隠れられそうな場所は木くらいしかない。
林に入り、隠れる場所を探してうろうろしていたら、足元が急にすべった。
木の陰になっていたのと、覆うような雪で気づかなかったが、崖になっていたようだ。
ザザーっと大きな音を立て、九郎は転げ落ちていった。
うう…と、体のあちこちに痛みを感じ、九郎はうめき声を上げた。
視界がぼやけてよく見えない。
目をこらして辺りを見ると、崖の途中に突き出すように生えている木の幹にひっかかっているだけのようだった。
林の中は、しん…と静寂につつまれている。
急に寂しさを感じた。
いつ落ちるかもわからない状況にも、恐怖で足がすくんでいる。
「うっ…慶ちゃん…!慶ちゃん…!」
泣きながら何度も何度も慶を呼んだ。
辛い時、悲しい時、どんな時でも呼べば必ず来てくれた幼馴染。
彼が傍にいる時だけ、九郎はひどく安心できた。
こんな非常事態でさえ、呼ぶのは母親でも父親でもなく、慶なのだ。
何度も叫び声も枯れてきていた。まだ幼い体は集中力も体力も続かない。
ぼんやりとしていると、次第にまぶたが下がり始めた。
完全に閉じた時、その裏に鈍色に彩られた慶の微笑が映り、嬉しくて手を伸ばしたその時―。
「九郎ちゃん?九郎!手を離しちゃダメだよ!」
慶の叫び声が聞こえた。
ハッとして目を開けると、崖の上のほうに、小さく慶の心配そうな顔が見える。
ああ…やっぱり来てくれた。
呼べば来るという幸せ。
得も知れぬ安堵が九郎を覆う。
ホッとしているのも束の間、九郎をささえている木がうなり声を上げ始めた。
九郎を受け止めた時の衝撃でヒビでも入ってしまったのだろうか。
いけない、九郎が落ちてしまう。
慶の手が伸びてくる。九郎も必死で手を伸ばす。だが、あと少しが届かない。
そうこうしているうちに、幹がどんどん下がっていき、九郎の手が離れていく。
このままでは確実に落ちる。それはダメだ。自分が助けなければ。
慶とてまだ10歳だ。落ちる恐怖は底知れない。
しかし今はそんな事にこだわっていられなかった。
落ちれば九郎は命を落とすかもしれない…。
慶は意を決して、九郎めがけて飛び降りた。
空中でしっかりと九郎を抱きしめる。
そのまま二人、崖の下まで落ちていった。
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