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覚醒3 Harukanarutokinonakade3:Kurou×Benkei 2009.06.09UP
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「う…ん…くろ…う…どこ…」
うわごとで慶が九郎を呼んでいる。
それに気がつき、九郎の胸は喜びで打ち震えた。
弁慶が自分を呼んでいる。それが嬉しくて。
慶のそばに寄り、手を握り締めた。
「弁慶、ここだ。俺はここにいる」
握った手が熱い。傷が熱を持ってきたか。
九郎は先ほどと同じように濡れた布を作り、慶の顔を拭ってやった。
「…つ…つめた…い」
ずっと閉じられていた琥珀の瞳が開かれた…。
九郎には暗かった世界に光が差し込むように思えた。
意識が戻れば大丈夫だ。
九郎は安堵のあまり、また涙をこぼした。
慶は足の痛みを感じ、己の足を見た。
手当てがしてあるのを認めると、ふっと微笑を浮かべ、九郎の手を握り締めた。
「…君が手当てをしてくれたんですね。ありがとう…」
それは、今の慶の口調ではなかった。
愛しい愛しい前生の…。
「九郎。僕は大丈夫です。だから…泣かないで」
弁慶の手がついと持ち上がり、九郎の目元を拭う。
九郎はその手をつかみ、己の胸元に引き寄せた。
「…やはり弁慶、お前だったんだな」
九郎の胸に、喜びと愛情と…説明のつかない感情がわき上がった。
目と目を合わせ見つめあった。もう言葉はいらない。
どちらからともなく、唇を合わせ、声もなく抱きしめ合っていた。
程なくして、子供二人がいないことに気がついた二人の親が要請したであろう山岳救助隊が、
崖の下に落ちている二人をみつけ、助けに来てくれた。
両親がお礼を言っているのが聞こえる。
九郎はぎゅっと弁慶の手を握った。
もう、この手は離さない。お前が泣いて頼んでもだめだ。
そう決意して、弁慶を見つめる。
弁慶も以前のような穏やかな笑みを浮かべて九郎を見つめ、手を握り返してきた。
…離さないでください。そう言っているように思えた。
やがて慶の両親がやってきて、慶を心配そうに抱きかかえると、握っていた手の力が抜け、すっと離れてしまった。
ハッとしてその顔をのぞくと、目を瞑って意識がないようだった。
とたんにまた九郎の全身に焦燥が走る。
「…べ…慶!…慶!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「大丈夫よ、九郎くん。安心して気を失っただけよ」
慶の母親が優しく九郎を諭す。だが、九郎の耳には届かなかった。
「慶、慶、…べ、ん…慶」
なおもずっと呼び続けた。目には涙が溢れ続けていた。
嫌だ、もう。弁慶を亡くすのはもう嫌だ。
俺から弁慶を奪わないでくれ…!
…もう耐えられない。弁慶がいない世界など、…耐えられないんだ。
九郎の母親が何とかなだめながら、二人は病院に運ばれた。
慶の足は緊急で手術をされた。
その間、九郎は医師の判断で鎮静剤を打たれ、眠りについた。
後の話だが、応急手当のおかげで慶は命が助かり縫うだけですんだようだ。
医師は驚いていた。この手当てを小学1年生ができたのか、と。
この件で慶の両親は九郎を命の恩人と思うようになる。
その後、九郎が病院で目を覚ました時、慶は隣のベットの上で本を読んでいた。
何事もなかったようないつもの風景に、九郎は安堵した。
慶は九郎と目が合うと
「おはよう、九郎ちゃん」
と、ふんわり微笑んだ。
ああ、弁慶だ…弁慶が今、自分の傍にいる。…生きている。
九郎は胸が満たされていくのを感じた。
しかし、"九郎ちゃん"の一言で、慶は記憶を取り戻していないと悟る。
だが、そんなもの、また作ればいい。
ここにいるのは、あの、武蔵坊弁慶なのだ。
それに違いはない。
大事にしていこう。そう心の中で誓う九郎だった。
END
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